銅系化合物修飾酸化タングステン光触媒の短所

プロジェクト前半(2009年頃)には、銅系化合物修飾酸化タングステン光触媒が、可視光に対する感度がもっとも高く、実用化の可能性が高いとされていましたが、材料が黄色味がかっているため、製品にもその色が反映してしまうこと、また、アルカリに弱いため使用場所・条件に制約が生じることなどの短所がはっきりとしてきました。
 
さらに追い打ちをかけるように、酸化タングステンの原料価格が急騰、原材料費が高止まりしたこともマイナス要因となりました。酸化タングステン系の光触媒材料を参加各企業に提供していくうちにいくつかの応用分野では、「プロジェクトとしては、酸化タングステン系の光触媒材料で開発を進めるけれども、最終的に製品化することは難しいだろう」という声がささやかれだしました。
 
 
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銅系化合物修飾酸化タングステン光触媒の誕生(III)

酸化タングステンに銅を修飾するノウハウをすぐに学び、約半年でなんとか量産化にこぎ着けることができました。
 
普通、材料表面に金属を修飾する場合、金属化合物の分散液に、修飾する材料を均一に分散し、十分攪拌、含浸させた後に加熱して水分を飛ばす方法(含浸担持法)が行われています。
 
しかし、今回は酸化タングステン表面に銅系化合物を薄く修飾させる新規の方法を開発しました。この金属の修飾法によって光触媒の可視光に対する感度が大きく向上し、プロジェクト全体の成果につながる基盤技術となりました。
こうして、新しい銅系化合物修飾酸化タングステン光触媒が、プロジェクト参加各企業に提供され、可視光応答型光触媒を適用した製品開発が進められることになりました。
 
 
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銅系化合物修飾酸化タングステン光触媒の誕生(II)

しかし、酸化タングステン単独ではその光触媒活性は極めて低く、そのままでの製品への応用は困難でした。ところが、酸化タングステンの表面に銅系化合物を修飾することで可視光への感度を格段に向上させる。そして、この材料がプロジェクトにおける最初の可視光応答型光触媒が誕生しました。

 

               

                    銅系化合物修飾酸化タングステンの分散液

光触媒は、高性能な材料(粉末)が得られても、それを実用的な製品とするのが難しい材料です。なぜなら、光触媒は接触している有機物を分解してしまうので、光触媒を保持するための接着成分(バインダー)も分解してしまい、光触媒自体を製品表面に保持できなくなってしまうからです。
 
また、光触媒の機能を発現させるためには、バインダーに埋もれないように、光触媒を表面に露出させる必要があり、そこにも厳しい技術障壁がありました。プロジェクト期間内に、新しい可視光応答型光触媒を開発し、その製品化まで達成するには、これまでにない研究開発のスピードが求められました。
 
 
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銅系化合物修飾酸化タングステン光触媒の誕生(I)

「光触媒」とは、太陽光の光エネルギーにより、有機物の汚れを分解したり、細菌を不活化したりする材料です。1967年、当時、東京大学大学院生だった藤嶋昭東京理科大学学長/東京大学特別栄誉教授が、後に"本多・藤嶋効果"と呼ばれることになる、水から水素をつくる研究で発見した酸化チタン(TiO2)が、世界初の「光触媒」です。
 
藤嶋学長の発見以来、「光触媒」は日本で誕生した新技術として発展し、応用されてきました。1995年には光触媒による「光励起親水化現象」も発見され、さらに応用範囲が広がりました。
 
この光触媒を利用した身近な例としては、ドームスタジアムやスポーツ施設(例・屋内テニスコート)などの白いテント膜屋根の加工に応用されています。光触媒で加工されたテントは、長年風雨にさらされても、汚れて黒ずんだりすることがありません。
光触媒はこれまで、そのほとんどが屋外で使われてきました。というのも、光触媒が機能を発揮するには、太陽光に含まれている高エネルギーの"紫外光"が必要だったからです。
 
そして、酸化タングステン(WO3)が注目されました。酸化タングステンは、酸化チタンと違い、もともと可視光に反応する材料であることが知られていました。薄い黄色をしているのは、可視光中の青い光(400~460nm付近)を吸収しているためで、この吸収される光をエネルギーとしてうまく活用できれば、光触媒とすることができます。
 
 
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酸化タングステン構造物又は酸化タングステン構造物の複合体の製造方法

酸化タングステン構造物又は酸化タングステン構造物の複合体、この微細加工用超硬材料工具の特徴は、その加工表面に、厚さ20nm以上200nm以下の酸化タングステン構造を表面に一様に形成してなる構成にある。
 
反応炉中に、ターゲットとしてのタングステンフィラメントをタンタル容器により支持された鉄製の金網上に配置し、鏡面研磨されたシリコンウエハーを基板として前記金網の下に一定間隔を保って配置し、空気雰囲気下でタングステンフィラメントを950℃〜1100℃の温度域に1時間以上加熱し、酸化タングステンナノ構造物又は酸化タングステンナノ構造物の複合体を製造する。
 
この際の基板温度としては、酸化タングステンが高度に結晶化されず、所望の酸化タングステン構造を得る点で200~400℃であることが好ましい。
 
 
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酸化タングステンの種類と生成方法

タングステン酸化物は4種類が知られてお り、二酸化タングステン(WO 2 )は褐色の単斜晶系、WO 2.72 は青紫色の単斜晶系、W O 2 .9 は 青 色 で 結 晶 構 造は 不 明 、三酸 化 タ ング ステン( W O 3 )は 白 黄色 の 斜方 晶 系 で ある。
 
通常、タングステンを酸化させると、白黄色のW O 3 が生成する事は良く知られている。WO 2 、 W O 2.72 、WO 2.9 に関しては、固体炭素、窒素ガス、水素ガスを用いてWO 3 を還元する過程において、これらの酸化物が生成するという特許はあるが、この方法では、赤外線照射加熱炉の使用、生成までに長時間の反応が必要などの欠点 がある。
 
タングスンテン金属を穏やかな酸化雰囲気中で酸化さて、タングステン酸化物を生成するのを見出した。上記のWO 3を還元する反応と本方法は逆である。
 
 
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酸化タングステンのエレクトロクロミック着色原理(II)

【酸化タングステンのエレクトロクロミック着色原理2】
 
通常の電解質の材料はイオンに対しては良導体であるが、エレクトロンに対しては不導体であるように選ばれる。このため、着色状態になったあと、電圧の印加をとめて回路をオープンにすると、エレクトロンの通路がなくなり、着色状態を維持する。
 
これがメモリー性であり、二次電池と同じく印加電圧よりわずかに低い電圧を保持している。逆転圧を印加するか、電極間を短絡すると着色と反対の反応が生じて最初の状態(消色状態)に戻る。着色時に注入された電荷量と消色時に放出された電荷量の比が1に近ければ、素子はより理想的な可逆的な反応をしていると考えることができる。 
 
ただし、エレクトロクロミック材料、電解質、対向電極材料がすべて液体で作られているエレクトロクロミック素子は上に記したような反応が液体層の中で混然と起こり、メモリー性はなく、電圧を印加したときに着色し、印加を止めたときに消色する。電荷量の比の関係もない。 
 
 
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酸化タングステンのエレクトロクロミック着色原理(I)

【酸化タングステンのエレクトロクロミック着色原理1】
 
エレクトロクロミック現象とは電圧あるいは電流を加えたときに可逆的に光学的吸収が起きる現象として広く定義されている。その中でも電気化学的な酸化還元反応を利用する研究開発が中心になっている。この可逆的な反応をする物質をエレクトロクロミック材料と呼ぶ。
 
酸化タングステンなどの還元反応で着色するEC材料を例に取る。エレクトロクロミック電極層が対向電極に対して負になるように外部電圧を印加するとEC電極には外部の電源より電子が、電解質層より正電荷を持つ着色イオンが供給され、可視の波長域に新たな吸収が生じて発色する。
 
このとき対向電極層では同量の電荷移動がある。つまり、電解質に陽イオンを放出するか、あるいは陰イオンを取り入れて外部に放出する。
 
 
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SMPS細孔径制御とその細孔を利用したWO3サブナノ量子ドットの開発(IV)

【研究の成果2】
【SMPS細孔を合成場としたWO3量子ドットの合成と光触媒能の制御・向上】
 
SMPS の制御されたシングル~サブナノメートルサイズの細孔を合成場として、WO3 量子ドットのサイズ選択的合成に成功した。過酸化タングステン酸の水溶液中に SMPS を浸漬し、洗浄、焼成することで、簡便に WO3 量子ドットを合成することができる。
バルクの WO3の場合、伝導帯下端は+0.5 V vs SHE(水素標準電極電位)、価電子帯上端は+3.1 V vs SHE に位置する。
 
そのため、光触媒として作用させる場合、酸素の一電子還元反応(-0.05 V vs SHE)を起こすことができない。光照射により生成した電子・正孔対の電子を効率的に消費できないため、再結合確率が増加し高い光触媒活性を得ることができないという問題点がある。WO3 の場合は量子サイズ効果の影響は伝導帯下端に選択的に働くため、直径約 1.2 nm以下の粒子において、酸素の一電子還元準位を超える伝導帯下端のシフトが起こると予測できる。
 
本研究では、異なるサイズの WO3 量子ドットについて、酸素一電子還元反応の進行を電子スピン共鳴法のスピントラップ法を用いて実証した。理論予測通り、約 1.2 nm を境に酸素の単電子還元が進行することを実証し、更に粒径減少に伴い反応効率が上昇することも明らかにした。
 
 
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SMPS細孔径制御とその細孔を利用したWO3サブナノ量子ドットの開発(III)

【研究の成果1】
【0.6~1.5 nm の細孔径を有するスーパーミクロポーラスシリカ(SMPS)の合成】
 
MPS の細孔径は、鋳型となる界面活性剤のミセル径に依存し、界面活性剤の疎水基の炭素鎖数で細孔径をコントロールすることができる。しかし、従来の MPS 合成法、たとえば、代表的な MPS であるMCM-41 では 1.5 nm 以下の細孔を形成・制御することは,炭素鎖C8未満の界面活性剤のミセル形成能の低さから不可能であった。
 
そのため、典型的なゼオライトの細孔窓径(~0.6 nm)との間に、制御困難な空白領域が残されていた。本研究では、シリケートイオンと界面活性剤の協奏的自己集合を系内で増加するために種々の合成法の改良を行った。
 
本研究で、通常溶媒として使用される水を極力系から排除し、濃厚なシリケートイオンと界面活性剤の混合系を形成することで、炭素鎖 C8 未満のカチオン性界面活性剤を用いた場合にもミセル形成が可能であることを見出した。具体的には、溶媒を用いずに、シリカ源のテトラエトキシシラン(TEOS)の加水分解に必要最低限の水(4 eq. vs TEOS)のみを系に添加する、無溶媒合成法を用いた。
 
これにより、炭素鎖 C6,C4 の界面活性剤を用いた SMPS の合成が達成され、それぞれ 1.1,0.9 nm の平均細孔径を有することが明らかになった。更に、有機シランを合成系に添加することにより、細孔径を更に減少させることに成功した。
 
 
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