白金を担持させた酸化タングステン光触媒(Ⅰ)

単純金属酸化物(1種類の金属の酸化物)ではScaifeがいうとおり、酸素が還元できるだけの伝導帯位置をたもちながらバンドギャップを小さくすることはむずかしい。水の全分解をめざす場合でも事情はだいたいおなじである。水素の発生にかかわる標準電極電位、つまり標準水素電極電位が0 Vだからである。
 
                   H+ + e- → 1/2 H2 
 
したがって、光触媒反応による酸素酸化反応でも、水の全分解でも、可視光を照射して反応を進行させるためには、酸化チタンに何かをまぜる。可視光応答化、つまりバンドギャップがちいさい金属酸化物を用いると、伝導帯がさがってしまうことになる。この予測どおり、黄色の粉末である酸化タングステンは、水の還元による水素生成も酸素の還元も起こらない。
 
いわゆるドーピングか、複合金属酸化物を使うことによって、あらたな電子のレベルを価電子帯のすぐ上あたりに導入し、伝導帯の位置を変えずに価電子帯上端の位置を上昇させるということになる。これが「可視光応答化」の基本戦略である。
 
ところが、すでに指摘されていたとおり、光触媒に格子欠陥がたくさんあると、そこで励起電子と正孔の再結合が起こってしまい、活性が低下してしまう。ドーピングはまさしく結晶に格子欠陥を導入することであり、また、複合金属酸化物では、複数の金属イオンが量論どおりに入っていないとやはり格子欠陥が生成する。
 
 
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